おもしろトピック:お灸の数え方(2)
現在のお灸は精製技術が進歩し、非常に柔らかく、軽く、夾雑物の少ない良質のモグサが作られるようになっていますが、古い時代に同じような良質で燃焼温度の低いモグサはおそらくは存在しなかったと思われます。
また、熱くないお灸をするには、ある程度の習熟が必要です。民間治療として行われる灸は、日本でも江戸時代までは熱いものであったようで、落語の「強情灸」や物事の始まりを意味する「皮切り」※という言葉で今に伝わっています(※「お灸の1回目は特に熱く、皮を切るものとされ、皮を切った後は熱さが和らぐという意味」)。古典成立当時のお灸も、とても熱く、強刺激だったのではないでしょうか。
熱さに対する許容度は文化的な影響も大きいと考えられるため、現代の人間には耐えられないと感じるほどの刺激を行っていた可能性はあります。事実、現在のお灸ではあまり行われませんが、わざと大きな火傷を作り、化膿させることによって免疫機能を賦活させるような「打膿灸」という伝統技法が伝わっています。
『素問』(骨空論(60)、繆刺論(63))『霊枢』(経水(12)、癲狂(22))などにはお灸の数として、壮の文字が使われています。特に『霊枢』癲狂(22)などでは、治療に必要なお灸の数が「灸骨骶二十壮」というような形で書かれています。
このようなはっきりと治療に必要な刺激量が書かれている場合、二十壮が二十回なのか、600回なのかでは全く治療が変わってきてしまいます。さらに、1回ごとのモグサの大きさや堅さなどの条件によっても燃焼温度が変化しますので、同じ刺激量を文献から再現するのは難しいのです。
鍼灸の古典には、そのようなモグサの質や実施に際しての細かな方法については書かれていません。また、当時の人間の身体と現代人の身体が全く同じということは厳密には証明できないことです。そういった、失われた部分を臨床での試行錯誤で復元、変化させながら、現在の鍼灸はできあがっているのです。


